「一強」

なぜかは解らない。
だが、国内最強の称号と引き換えに彼は呆けてしまった。
中間から嫌々走っているかのような気のない走り、そして実戦でもピクリとも動かず…
ゲート云々など関係ない。
明らかに精神的な問題。
あの溢れんばかりの闘志を失なってしまったことこそが前走の敗因であろう。

一間隔あければ違うのではないか。
そんな思いが、おそらく陣営にもあったと思う。
だが残念ながら帰ってきた彼は何も変わっていなかった。
この中間も、かつての行きっぷりはなく妙に折り合ってしまう毎日。
それでいて、いざ仕掛けてもズブい…
と言うより他馬を抜く気がない。
正直、「これはダメだ」と思った。
別に隠すつもりもないが、個人的には近年で最強だと思っているフェイバリットホース。
これだけ人気を承知で◎を託し続けてきた初めての馬である。
そんな妙な思い入れがあるからこそ、ただただ寂しかった。

だが最終追いで劇的なことが起きる。
何と全てを取り戻した姿を見せてくれたのだ。
あの掛からんばかりの道中に、仕掛けるまでもなく抜きにかかる前向きさ。
もちろん一度前へ出ても気を抜くことなどない。
まさしく最強を射止めた、かつての動きだったのである。

そのキッカケとなったものこそが「ブリンカー」
ひょっとすると色々と見えずきてしまっていたのかもしれない。
もう敵らしい敵がいないことまで…
だが視野を遮ることでシャットアウト。
それによって見事に闘志が復活したのなら、もう心配はいらない。

確かに馬具によっての無理矢理感はある。
ブリンカーに慣れてしまったら…どうなることか。
もう、そんなに長くはないのかもしれない。
だが、今回だけは最強を目指し、且つ成し遂げて見せた昨年の姿を見せてくれよう。

まともなら「一強」でしかない。
エフフォーリア◎