とてつもない前走の価値

個人的な話で恐縮だが、秋の天皇賞でいわゆる“ド本命馬”に◎を打った記憶がほとんどない。近いところではイクイノックスもアーモンドアイも、一番強いのはわかっていながら◎は打たなかった。もちろん臍曲がりの性格ゆえのことなのだが、生まれて最初に生で観戦した秋天が１９８５年、無敵と思われた皇帝シンボリルドルフが敗れたレースだったせいもあるだろう。当時と今の“休み明け”を一緒に考えることはできないものの、ぶっつけで使うことの難しさ、そしてそれを買う怖さが特に秋天には染みついている気がする。

◎はホウオウビスケッツ。

夏の函館で本格化を示しての重賞制覇。そしてその余勢を駆ってグレートが１つ上がった前走の毎日王冠でも２着と好走。端的に近走を振り返るとそうなのだが、実際は函館戦の後に夏負けをして、前走はとても“余勢を駆って”の状態ではなく、完全に復調途上での出走だったもの。それでいての２着確保は想像以上に地力が強化されていることの証であり、もうひとつグレードが上がったここでも対応できるという考え方に、そう無理はないのではないだろうか。東京では６着ながら僅かコンマ２秒差だったダービーを含めて凡走はなく、持てる能力をフルに発揮できる舞台。この中間の相当な上積みにより、休み明けの実績馬との差を埋めての激走に期待した。