一番多く負けた馬

強い馬が勝つのが競馬であり、強い馬を探すことが予想の原点であることに異論はない。しかし、逆説的ではあるが、一番強い馬が勝つとは限らないのが競馬でもある。

“競馬の神様”と謳われた大川慶次郎さんが、生涯で一度もシンザンに◎を打たなかったのは有名な話である。そんな神様の足下にも及ばない私も、実はディープインパクトには一度も◎を打たなかった。もちろんディープの強さはレースを重ねる度に身に沁みていたのだが、常にディープが負けるとしたら、負かす馬がいるとすれば、という観点で予想を組み立てていたからである。確たる信念を持っていた神様とは違って、私の場合は単なる臍曲りと言っていいのだが。

一番強いコントレイルに何の不安もない以上、負けるとしたらではなく負かすとすれば何かで考えるべきだろう。これまでにただ一度、皐月賞で脅かされたサリオスが不在なら、まだ勝負付けの済んでいない馬に託したいのだが、どうも食指の動く馬がいない。ならば、あえて対戦成績で４戦４敗と回数にすると一番多く負けているヴェルトライゼンデを◎とした。

神戸新聞杯は、着差以上に決定的な差と見るのが一般的かもしれないが、元々がセントライト記念から始動の予定が狂っての臨戦で、夏を無事に越したコントレイルとは、仕上り面での差も大きかったはずだ。一叩きされての上積みの大きさで、あの差を詰めてさらに上回る可能性もけっしてゼロではない。加えて、距離に関しては“たぶん大丈夫”のコントレイルよりも、兄が昨年の覇者であるこちらの方に確実性もあるではないか。この馬の５度目の正直に賭けてみるしかない。